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コラム

2025/01/22

アメリカのWHO脱退がもたらす影響について。

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アメリカ(トランプ第2次政権)がWHO(世界保健機関)から脱退するという意思表明は、「医療や公衆衛生の分野」においてはかり知れない深刻な事態を引き起こすことになるでしょう。特に、ワクチン予防やパンデミック対策を含めた感染症対策、医学研究全般。当然精神医学においても。国際協力におけるアメリカの役割の変化により、「世界の医療・公衆衛生」へ大きな影響を及ぼすこと必至です。

1. 感染症対策と公衆衛生への影響

アメリカはWHOへの最大の資金提供国です。間違いなく。その資金は発展途上国における感染症対策・公衆衛生の向上を歴史上支えてきました。ここでは色々な陰謀論や極端すぎる議論はなしとします。そのアメリカが脱退することで資金が途絶えると、以下のような問題が発生します。

まず、予防接種プログラムや感染症への早期警戒システムが弱体化します。新興感染症やパンデミックへの対応が遅れてしまうのです。例えば、COVID-19のような国際的な脅威に対し、WHOが構築したデータ共有ネットワーク利用の可否が運命を分けます。アメリカだけでなく全世界・特に発展途上国の不利益が浮き彫りになる可能性が高いです。ワクチン開発、治療法の開発にも悪影響が及ぶでしょう。WHO主導の研究ネットワークや試料の提供システムからアメリカが外れるわけですから。容易に想像できることは、新薬・治療法の開発が遅れ、多国間協力が不可欠な分野(希少疾患や新興ウイルスの研究などが筆頭)での進捗が確実に滞るでしょう。

発展途上国では、アメリカがWHOを通じて提供していた資金が公衆衛生対策にとって要でした。国際機関・国際機構の「闇や裏側」が取り上げられ、暴かれることは不可避ですが、それはWHOも同じこと。しかし、アメリカからの巨額の資金が失われることで、感染症がまん延する状態を招いてしまい、国際的医療危機へ波及するリスクを高めてよいのでしょうか。

2. 精神医学への影響

私は精神科医です。精神医学の分野ではアメリカ精神医学会が作成したDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)と、WHOが提供するICD(国際疾病分類)の連携で、常に現場の臨床で混乱を目にしてきました。しかし、アメリカがWHOから脱退することで、内科・外科と違い診断・治療が治療者によって異なりやすい特性の医学分野において、上述の連携が弱まることで、問題が起きます。

まず、DSMとICDの診断基準が乖離(かいり)していきます。精神疾患の国際的な診断や治療法の標準化が困難となるリスクを孕みます。例えば、ICD基準とする国が大半な中、アメリカがDSMに没入していくことで、アメリカと世界中の多くの国々の医療現場とでは診断・治療法に差異が生じてくるのです。精神疾患に関する国際的な研究停滞、これは回避すべきでしょう。

もちろん市井の臨床家は、心つまりは脳に関わる精神医学に、上っ面だけの基準にあてはめ、押し込めた研究結果が恣意的に操作され、精神医学的エビデンスとされていることへ嫌悪を感じている方がいます。私もそのひとりです。研究はせず(有能な能力者へまかせて)、ひとを診て、ひとの精神状態を重んじるため、普段からそうした研究をベースに根拠(エビデンス)として治療に活かすことへ疑問を感じます。しかし、そうしたデメリット側面も「あえて」前提と踏まえた上で、診察室で「本当だろうか」と懐疑的に思いつつも探りながら治療を続けていく重要性も強く感じます。精神科の臨床家たちの共通言語がないまま、得体の知られない民間療法(すべてが悪いわけでは決してありません)のマネタイズの犠牲者が出ることは心より望んでいないからです。研究結果から導きだされたデータに基づいた治療選択は一定水準の担保にはなるでしょう。WHOが提供するデータ、研究ネットワークが利用できなくなると、精神疾患の新しい知見、治療法や予防策の開発は必ず遅れます。特に精神疾患の遺伝的要因や文化間、地域間の国際的な「比較」が失われることで、世界中から集まる優秀な医学者がアメリカで頑張る際、国際的に孤立していく可能性があります。巨大IT系の企業の潤沢な資金があってもそれが精神医学や希少疾患、疫病対策へ投じられるのかは疑問です。

WHO推進のメンタルヘルスキャンペーン、例えば精神疾患へのスティグマ(偏見)払拭、早期介入プログラム等が、アメリカ離脱によりメンタルヘルス施策の停滞を招く懸念につながります。その先には、発展途上国における精神医療支援も滞り、特に「弱者」が大きな被害を被る構図がみえてきます。

3. 医学研究と教育

WHO脱退は、アメリカ国内の医学研究や教育にも直接的に影響を及ぼします。WHOのネットワークを通じたデータ、素材の提供がストップすることで、感染症や希少疾患の研究は遅れるでしょう。必然です。アメリカが国際的な医学ガイドラインからじわじわズレていくことで、多くの優秀な医学生や医療従事者への教育・指導法が国際基準から外れていく恐れがあります。

さらに、WHO脱退によるアメリカの国際的信頼の低下は、優秀な海外の医学生や研究者がアメリカを留学先として選択せず、「じゃあアメリカではなくEU諸国に」「オーストラリアに」「日本やシンガポールに」と考える医学生、医師、医学研究者たちの世界的な流出を招く可能性を孕んでいます。アメリカの医療システムそのものの弱体化への懸念が高まります。

4. トランプ大統領の思惑と周囲の反応

トランプ大統領がWHO脱退を決定した背景には、中国への対抗意識、WHOの約18%を賄っている経済的負担の削減、そして国内の支持基盤強化が挙げられるそうです。彼はWHOが中国に寄り添う姿勢を批判し、「アメリカ・ファースト」を掲げて国際機関への依存を減らす姿勢を強調していくそうです。偏向報道が多いためあまりニュースでは把握していません。今後起きうる事態・ファクトから判断をせざるをえません。「アメリカ・ファースト」観点から、WHOへの多額の拠出金を国内へまわす、国内の医療や経済へまわす、という目先の経済的アピールも狙いの一つではないでしょうか。その先に何が待っているのか、考えているのかいないのか。

アメリカ国内の医療界・医師・研究者からは強い反発は避けられないと考えます。多くの医師・研究者は、WHO脱退が国際的な医療協力を損ない、感染症やパンデミック対応における重大な危機を引き起こすと考えるのが自然です。アメリカ医学会(AMA)などの主要医療機関がここで抗う姿勢をみせてくるのではないでしょうか。倫理観・公益性への視点が欠如していないのならば。

5. 国際医療への影響の大きさ

アメリカWHO脱退は、単なる国内政策の問題にとどまらないでしょう。国際医療全体に必ず深刻な影響を及ぼします。公衆衛生、感染症(重きは発展途上国のこどもたち)や希少疾患、内科や外科はもとより文化間、人種差、地域差のパラメーターが必ず必要な精神医学研究、医学・医療教育の分野において、国際的な協力連携体制が弱まり始めることで、アメリカがこれまで築きあげてきた功利主義的な信頼?を失う可能性が十分にあります。

結果的として、アメリカに悪影響をもたらす。

トランプ第2次政権のWHO脱退(第1次トランプ政権で表明、その後バイデン元大統領の撤回、そして再び今回の事案)がもたらすこれら様々な観点からの多大なるリスクを軽減するには、国際協力の枠組みを維持(立場立場で思うところがあることは承知の上で)により、医学研究や公衆衛生を軸として国際社会との連携をすり合わせする努力が不可欠でしょう。これは誰得でしょうか。

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