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コラム

2025/01/14

睡眠に関しての医学的な雑感

睡眠の重要性についての雑感です。

私は睡眠専門の医師ではありません。

外来診察室でのジレンマ

診療時間短縮のために、安易に外来で睡眠導入剤や抗うつ系薬剤、鎮静(強制シャットダウンさせる)がかかる薬剤を処方してしまいます。

それが他の医師からみて、ひとつもほめられたことではないことも承知しています。ジレンマです。

言い訳ですが、診療にもっと時間がかけられるならば「睡眠のための指導、助言」を懇切丁寧に行うことができます。

「あなたには薬はまだ必要ないです」「なぜならもっとやるべきことがありますから」「あなたはやるべきことを全部やっておられるので、薬をはじめるか、睡眠時の無呼吸や生活習慣に何らかのヒントが隠されている可能性があります」

など、色々考えます。

睡眠系薬剤に頼るリスク

薬は「依存を招いてしまうもの」「依存しにくいもの」があります。最初はよく効果があるのに途中からだんだん効果が薄れてくる現象(耐性)、今まで薬に頼っていた方が急に薬をやめようとして朝まで全く眠れなくなる現象(反跳性の高度な不眠)なども有名です。薬の影響で、トイレに夜中向かう際にふらついて転んでしまう、ふらついて階段から転げ落ちてしまう、寝ぼけてしまった状態で気が付いたら冷蔵庫から食料を取り出して台所で無心に食べる(本人は覚えていない、家族がみかけたらまさにホラーでしょう)、夢遊病のように黙々と何らかの行動をとるなど夜の異常行動といったリスクと呼んでよいデメリットと切っても切り離すことができない現実があります。

高齢者の睡眠

私は歳を重ねた方々に対し、「もの忘れ」「認知症かもしれない疑わしい症状」を診る外来を担当することが多い医師です。

認知症の発症や進行に関与する異常蛋白の“そうじ”には、「睡眠が必要です」「人とよく会話することが重要です」と診察室で繰り返し繰り返しお伝えしてきました。しかし新規の認知症治療薬の登場により、従来の進行をゆっくりと抑制する薬とは異なる知見が今後は必要になってきました。

当然、使える方、使えない方、メリットの裏にデメリットがあることも今わかっております。

高齢者はとかく、「睡眠」や「排便」に囚われていく傾向があります。

さて、改めてここで「睡眠」について再考してみます。

そもそも睡眠がどれだけ重要か。

大谷翔平選手はとにかく睡眠を重視しています。

最重視しておられるのではないでしょうか。彼は10時間は眠り、昼寝も取り入れ、最高のパフォーマンスを発揮するために工夫を重ねています。その結果、唯一無二の存在になりました。

睡眠と幸福度

OECD加盟国で、睡眠時間が圧倒的に少ないツートップである「日本・韓国」。そして幸福度が低いとされます。睡眠自体が幸福度にも関与している可能性が強く示唆されます。

多くの医師は、脳を休め、身体に休息を与えることで、疲労の回復や疲労蓄積の予防につながることを知っています。睡眠はストレスの緩和にも多大な影響を及ぼし、免疫システムにも大きく貢献します。

眠っていないと余裕がなく、いつもぴりぴり。

些細なことでいらついて、周囲に当たり散らして、最後には自己嫌悪。思い当たる方も多いのではないでしょうか。

こどもの睡眠

子どもたちに焦点を当てると、深い睡眠相のおかげで、ASD傾向が薄まり、ADHD特性(おちつきのなさ、ちゅういさんまん、衝動のかたまり)との誤診が減少し、いわゆる「キレる」ことが軽減され、心・情動が安定し、過食を防ぐことにもつながり、肥満予防になります。知能の発達も促され賢く育つなど、良質な睡眠の効果は計り知れません。学習効果も睡眠と深く関与します。

睡眠負債

脳を酷使する現在のストレス社会において、睡眠は脳と心身を休める役割を果たします。「私は眠らなくても大丈夫」「ショートスリーパーだから」と思い込んでいても、実はストレスと向き合い対峙していることに気づかず、睡眠の借金、睡眠負債によって、誰も得しない状況に陥っているケースを多く見かけます。

このように、世界的に見て睡眠時間が圧倒的に不足している日本が他国と競い合うためには、20歳代〜50歳代の働き盛り世代の睡眠に「テコ入れ」することがとても大事なのです。

長時間労働者、とにかくHRにやいのやいの言われることが多くなっていませんか?長時間労働の行きつく先をシンプルに考えて「睡眠負債の働くひとびと」とくくるようになってきています。

活躍世代の女性の睡眠

また、女性の活躍が期待される社会において、40歳代〜50歳代の女性の睡眠の質を向上させることは非常に重要です。女性ホルモンの影響が大きい年代であり、家事・育児・就業、更年期に伴う抑うつの併発や、閉経に関連する「閉塞性の無呼吸症候群のリスク増大」など、50歳女性の睡眠状況は深刻な課題となっています。

睡眠負債と経済的損失

ビジネスパーソンに対しての健康講話では、睡眠不足によるプレゼンティーズム(出社はしているけど、気づけばぼーっとしていて、仕事に集中できず、会議の内容も頭には残っておらず、ただただ出勤だけしているような悲しい状態)の経済損失について話します。

あまり知られていないかもしれませんが、日本の睡眠不足による経済損失は20兆円に迫り、国家予算の1割に相当します。

「健康経営」を語るなら、「睡眠経営」と捉えるべきかもしれません。

行政が対応できない場合、我が国を救うのは「職域レベル」や「民間企業の努力」による取り組みが期待されます。

睡眠医学の権威の先生が、人間ドック・脳ドックならぬ、「睡眠ドック」の推奨をしてくださると、日本の未来は明るくなるかもしれません。

自分に合った適切な睡眠に関する知識

大谷翔平選手や世界の富豪たちが、自身のパフォーマンスを維持するために、個人差がある睡眠時間や睡眠の質を考慮しながら「自身にとっての最適な睡眠時間」を把握している現実は、私のような凡人にもマネすべき参考材料になるかと思います。

睡眠の囚われからの脱却

眠らなければ「ならない」と考えてしまう睡眠への「囚われ」の民に対して、外来診療で余裕がある時だけ、以下Tipsの一部を抜粋してお伝えします。あまり過度な言い分にならないよう、あえて意識します。

まぁできないでしょう。逆にこれらが実行できたら人間ではなくマシーンでしょう。
なるべく人間らしくあってほしいものです。

何事も「ほどほどに」と割り切ることが大事です。

以下項目は「セルフケア睡眠実践編」の一部です。

・寝る時刻に拘らない

・日本は驚くほど室内の照度が高い、夕方以降は暗い照明で過ごす

・日本の住居、部屋の照明は世界的に明るすぎることを知る
・体温が下がる時に人は入眠できると知る
・ぬるま湯に20-30分間浸かり、深部体温を上げて、眠りたい時刻の2時間前には入浴を中止
・熱い湯船からあがってカテコラミンのドバドバ状態で入床する人が多い
・眠たくもないのに強引に入床しない、まどろんできてから入床するのが吉
・眠る前の2時間前からパソコン・スマホは観ない
・寝室にスマホは持ち込まない
・眠る数時間前から照度を落とす、ホテルの微妙に暗い照明程度
・寝酒はやめる、確かに寝つきはよくなる、ただ眠った気になるだけ

・飲酒の助けで眠ることで劣悪な睡眠をとるだけ、中途覚醒の嵐
・布団に入って30分程度眠れなかったら一旦潔く布団から出る

・夜中途中で起きた(中途覚醒)時はわざわざ時刻を確認しない

・睡眠時間・数字への囚われの始まり
・睡眠をきちんととる、〇時間寝なければならない、と思い込まないこと
・〇時間睡眠が必要など、数字に囚われる患者が外来診察で後を絶たない
・確かに睡眠不足は認知症の発症、異常蛋白のアミロイドベータ・タウ蛋白の蓄積へアクセルを踏む
・睡眠によって脳内にホルモンが放出され、疲労の蓄積を改善させる
・起きる時間には拘る、起床時間を一定にする
・休みの日は、就労やオンの日の「+2時間まで後ろ倒し」は可
・朝起きたら必ずカーテンを開けて日光を浴びる、それが体内時計のリセット
・日光(光)の受容体は目の奥の網膜、あるいは体表の皮膚にある

・必ず午前中に空を見上げる
・日光を浴びないと骨粗しょう症は加速、骨が脆弱となり体力が落ちる
・体力が落ちると昼間にうとうと・爆睡し、必ず夜間の睡眠の質を下げる
・カフェインは14-15時頃以降控える、ディカフェ、カフェインレスを利用
・コーヒーよりも、緑茶・紅茶の方がカフェイン含有量は多いことを知る

・喫煙、飲酒、カフェイン含めた物質のメリット・デメリットを知る
・昼寝は悪、とは決めつけない

・20分~30分間の昼寝は最強
・上手に昼寝をとり午後のパフォーマンスを上げ、夜の睡眠にも悪影響なし

・結局理想の睡眠時間は個人差があり、〇〇時間が必要、等と勝手に決め込まない(諸説あります)
・いびきの有無の確認、睡眠時無呼吸の有無の確認(アプリ・他者の助けが必要です)
・メンタル不調者の養生時は上記を全てひとまず無視、ある期間(急性期)は眠り続けてよい
・上記を全て守られる人なんて、現代人にはいない

・上記を全て実行できるわけがないと割り切る

最後に

そしてメッセージです。
ほどほどに、自分だったらこれはやれるかも、と思えたことだけでも実践してみて、それでも睡眠障害(不眠、過眠、病的な日中の眠気、睡眠中の行動異常、熟眠感の欠如など)から抜け出すことができないならば、迷わず「メンタルクリニック」「睡眠専門外来」の門を叩いてみてください。

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